新しい音楽と接したいという衝動を起こさせるヘッドホン ― SRH1840/SRH1440レビュー

 優れたオーディオ機器は、それまで触れることのなかったタイプの音楽と接したいという衝動を起こさせる。あるいは、その逆、新しい音楽との出会いに自然にいざなうのが、良い製品である証だというべきか。ライブラリーの中からCDやMacintoshに収めたハイレゾリューションファイル、それにアナログまで引っ張りだして、さまざまなジャンルの音楽を聴きたくなる。あの曲を、このヘッドホンは、どんな音で再生してくれるんだろう。その曲は、たしかクラシック畑のアーティストがカバーしていたはず。では、クラシックのフィールドにも分け入ってみようか、といった具合に。意識的に遠ざけてきたタイプの音楽に、突如として関心が湧く。僕自身が体験した事実だ。

 ここに登場した2モデルは久しぶりにそんな気持ちにさせてくれたヘッドホンである。  フラッグシップのSRH1840でまず聴いたのは、エイミー・ワインハウスが遺したラストアルバム『ライオネス:ヒドゥン・トレジャーズ』から「イパネマの娘」。ライナーノーツのよるとデビュー前、18歳の頃の録音だとか。若々しい歌声にハッとする。ドラムスは、ひじょうにタイトで軽やかに響き渡っている。特にスネアドラムはヘッドを新調したかのような張りもある。控えめにミックスされたストリングスはボーカルの周囲に寄り添うようで、決して拡散しすぎることがない。ここがこのヘッドホンの優秀なところだ。一般にオープンバックタイプは、音場が曖昧になることが多い。だが、内部のエアフローを巧みにチューニングすることで、爽快かつ明瞭なサウンドステージを描いているのだ。

 では、ジャズベースは、どんなふうに聴こえるんだろうと思っていたところ、知人のK氏から借りた、クリスチャン・マクブライトの新作『カンヴァセーション・ウィズ・クリスチャン』があるのを思い出した。ベーシストがフロントに立つジャズを、僕はあまり好まないのだが、このヘッドホンが聴いてくれとなにやらせがむようなので…。ラテンジャズのレジェンド、エディ・パルミエリとのデュオ「Guajeo Y Tumbao」を再生する。ピアノの中高域が爽やかで輪郭のくっきりしているのは、エイミーの時と同様。驚いたのはベースの音色が柔らかで、深く沈み込むこと。まるで毛足の長いブランケットに包まれたような感覚だ。思わず聴かず嫌いを悔いた。それはこの高品位なサウンドがもたらしたことであることはいうまでもない。

 弟分のSRH1440は、SRH1840と比べると、重心がやや低く、爽やかさよりも音の密度を重視している印象を受けた。エイミーでは、ボーカルやドラムスの余韻が濃厚なため、ドリーミーな空間が立ち上がってくる。クリスチャンのベースはSRH1840よりも、さらにふくよかな厚みがある。しかし、鈍重にはならず、きびきびと躍動するダイヤフラムの存在をリスナーは感じ取れるだろう。

 2つのヘッドホンへの興味は尽きることがない。これを生み出したエンジニアたちに敬意を払いつつ、さて、次はどんな音楽を再生しようか。

中林直樹(なかばやしなおき)

文筆業
根が音楽好きにできている上に、 過去にオーディオ&ヴィジュアル専門出版社で編集者として勤務した経験あり。ゆえに、ソフトとハード、双方を視点とした評論活動が信条。

シュア・ ジャパン株式会社

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